古代カミソリ史
人間文化発祥の原点。
それはヒゲを剃ることから始まった。
黒曜石の石刃
人類は遠く有史以前にさかのぼり、ひげや体毛の除去、また頭髪を整えるために、刃物に似たものを使いはじめていたとされます。旧石器時代には、貝殻、 獣骨、サメの歯、火打石などを刃物に加工して使っていました。石器時代人は戦いの際にひげをつかまれないように、自己防衛手段として、ひげを剃る必要に迫られたともされています。生存競争がカミソリのルーツを生んだと言えます。
新石器時代人は、黒曜石の石刃を使っていたと推定されていますが、 1963年の日本の学術調査団の報告に、 ニューギニアの高地に住む原住民が不等辺三角形の黒曜石を手に握り、ひげをつまむようにしてヒゲを剃っているのを目撃したとの記録が残っています。
青銅の刃
古代バビロニアでは、ひげのない人間との約束は反故にしてもよいとされ、逆にエジプトでは、アゴのヒゲや頭を剃っていたということが知られています。ひげのないすっきりとした顔が身分の高さを示していたと言われます。当時の宗教的な習わしで身体に住み着いた悪魔は頭から天に向けて逃げていくとあったらしく、髪の毛とヒゲを剃り落していたそうです。中には、ひげを剃ったうえで、金や銀で模造した「つけひげ」をあごにつけていた王もいたとされています。
また、この風習は、白兵戦で敵に髪の毛をつかまれないための防衛手段として、アレキサンダー大王統治下の紀元前330年ごろにはギリシャ人やローマ人の間にも広まっていきました。こうして、剃毛の風習が徐々に世界のほとんどの地域に浸透していくにつれて、毛を剃る習慣のない部族の男たちは、毛を剃らない人間(unbarberd)という意味で「バーバリアン(Barbarian)」(野蛮人)と呼ばれるようになりました。
青銅器の発見に伴い、いろいろな形の刃物が作られるようになりました。 紀元前1400~1000年のヨーロッパでは、長方形をした刃と渦巻き状の握りのついたカミソリが多く使われました。神話に題材をとった絵や文字が刻まれているところから、儀式に使われていたとも考えられています。
紀元前14世紀のエジプトにおいて、斧型の剃刀が使われ、新王国時代になると現在のレザー(西洋カミソリ)に似た形のものが現れたことが伝えられています。レザーと称される折りたたみ式の両刃のカミソリが使われるようになったのは、前6世紀ごろのローマ時代であったと言われます。 ローマで使われはじめた折りたたみ式の両刃のレザーは、一般にも広まっていきましたが、毎日ひげを剃る習慣を普及させたのは、ローマの政治家で将軍だったスキピオとされます。 また、古代ギリシャでも前325年に三日月形のカミソリがあったとの記録が残っています。
本格的にヨーロッパに広まっていったのは、中世になって。刃物産業が発達してからです。